NAKAMURA"おんつぁん"

挫折と復活を経て。型破りな中年スノーボーダーが作り上げたい世界とは

<Interviewee>おんつぁん
<Date>2021/9/29

 

今年41歳になるLehmans最年長のスノーボーダーは、仲間から“おんつぁん”と呼ばれ親しまれている。おんつぁんとは、東北弁で“おじさん”を意味する方言だ。

 

彼は若い頃、怪我によりスノーボードを離れることになる。挫折との戦いの末、彼を再びスノーボードの世界に引き連れたのは、紛れもなくおんつぁんのスノーボード愛だった。

 

挫折、スノーボードから目を逸らし続けた20代

家族全員がお喋りな家系に育ち、人と話をするのが好きだというおんつぁん。言わずもがな幼少期は目立ちたがり屋で、友達同士の会話にガヤを入れて他人を笑わせていたという。

 

「スノーボードも同じように、目立ちたくて始めたことが大きかったと思います。」

 

16歳のとき、当時の高校の同級生からスノーボードを勧められ、「かっこよさそう」と思い始めてみた。地元・仙台からは電車でアクセス可能な“面白山高原”というスキー場があり、スノーボードを始めてからはよくそこへ通っていたという。

 

高校卒業後は、芸能活動を志して上京した。養成所に入って、演劇指導を受ける日々となった。その合間を縫って、工場派遣の仕事で食い繋いだ。

 

「養成所にいる間も、冬になるとスノーボードをするために地元へ帰らせてもらっていました。」

 

そんなスノーボードを愛する23歳のおんつぁんに、苦難が訪れる。度重なる怪我だ。

 

「それまでスノーボードに行くたびに、肩の脱臼を繰り返していました。肩をあげるだけで外れてしまう状態で、自分で肩を入れられるならよかったんですけど、下山した後に毎回病院に行かないといけなくなってしまって。一緒にいく仲間に迷惑をかけてしまうので、スノーボードから離れることにしました。」

 

その後は、工場勤務を続けて生計を立てていたという。工場で出会った音楽好きの同僚に連れられ、夜な夜な渋谷や代官山のクラブに通うようになった。色々なレコードを買い漁り、音楽の世界にのめり込んだ。時を同じくして、職場である女性と出会い、交際をスタートした。

 

「その時は、身近に音楽があり、彼女と一緒に過ごす日々を楽しんでいました。スノーボードのことを忘れていたわけではありませんでしたが、迷惑がかかるのでしばらく復帰は控えていましたね。スノーボードへの気持ちを紛らわすかのように、ずっと20代を遣り過ごしてました。」

 

30代になると、交際していた女性との結婚話が持ち上がった。結婚後の家計を支えるため、当時働いていた工場の派遣を辞めて、新たに正社員として通信会社の営業の仕事を始めた。

 

「でも、入った会社が相当なブラック企業だったんです。肌に全然合わなくて速攻辞めましたね(笑)」

 

その後は、工場勤務時代の貯蓄を切り崩しながら生活をしていたが、結婚話の方は順調に進み、同棲を始めるために引っ越しをした。貯金も底がついているのを実感しているとき、彼女とたまたま行った横浜のベイサイドマリーナで、人生の転機が訪れた。

 

30代からの挑戦、40代の現役スノーボーダー

今ではLehmans最年長スノーボーダーとなったおんつぁんが、33歳でスノーボード復帰を果たしたきっかけとなったのは、Taigaとの出会いだった。

 

ベイサイドマリーナを彷徨っていると、スノーボードブランド“Burton”のアウトレット店が近日オープンする情報が目に飛び込んできた。

 

「Burtonは昔愛用していたブランドでした。当時は生活費を入れるために、アルバイトであっても仕事を始めないといけないという思いがありました。それに、『スノーボードに携われる仕事であればいつかは復帰できるかも』と期待した自分もいたので、早速面接を申し込みました。」

 

無事にアルバイトとして採用され、働き始めることに。そして開店して間もない頃、お客さんとして来店したのがTaigaだったという。

 

「Taigaの第一印象は『ずいぶん元気な男の子だなー』という印象でした。Taigaの小学校時代の先輩がBurtonのアルバイトとして働いていて、その店員を通して仲良くなりました。シーズンになった時、みんなで一緒に滑りに行こうという話が上がりました。」

 

こうしてTaigaの誘いを受け、今まで遠ざけていたスノーボードに復帰することを決意したのだ。そして10年ぶりにスノーボードに乗ると、驚くべきことに長年のブランクを思わせないくらい、体は自由自在に動いた。

 

復帰後、ゲレンデに足を運んで数回目となったある日、おんつぁんは思った。

 

「10年前のように、また飛んでみたい」と。そしてこの日、彼は飛ぶことを決意した。

 

武尊牧場の一番大きいキッカーでFS360を回し、インディーグラブを掴んだ。バランスを保つため左腕を伸ばしたその瞬間、空中でまたもや綺麗に左肩を脱臼してしまったのだった。

 

「『外れた!』と感じた瞬間は肩に意識が集中していたので、人生最高のビタ着を果たした事にも気づかないでレスキューへ直行してました。Lehmansの間で、この“武尊牧場の伝説”は今でも語り継がれています(笑)」

 

その後、おんつぁんの肩の怪我を心配し、スノーボードを必死に止めさせようとする彼女との生活に歯車が合わなくなっていった。それと同時に、スノーボード熱に再び火がついたおんつぁんのギアは上がっていった。やはり、「自分を突き動かすのはスノーボードだった」と確信したのだった。

 

「やっぱり、スノーボードは人生とリンクしていると思いました。他の人からみると、ちょっとチャラいスポーツに見えるかもしれません。

でも、スノーボードは自分にとって、人生において大事な要素を兼ね備えているスポーツなんです。楽しいスポーツでもあり、会話のツールでもあり、人生を昂(たかぶ)らせてもらうものでもある。突き詰めていくと、意外と奥は深いです。」

 

Lehmansのメンバーは皆、口を揃えておんつぁんの滑りを絶賛する。

 

「他のみんなとそんなに技術レベルは変わらないと思いますが、長年滑っているだけあって味はあるのかもしれないですね。老舗の牛丼屋の注ぎ足しタレみたいな感じですかね(笑)」

 

最年長にしか為し得ないLehmansでの使命

「この歳で仲間にいれてもらえるのは、正直嬉しいですね。自分のミッションは、同年代(40代)に向け、情報発信していくことだなと思います。昔レジェンドだったスノーボーダーを若い時から見てきた世代なので、そういう人だからできる方法で、上の年代をどんどん取り込んでいきたいですね。」

 

家庭、体力の衰え、同世代のスノーボード仲間の減少...。「昔はバリバリやっていたスノーボーダーであっても、何らかの理由でスノーボードから離れてしまっている中年層がたくさんいる」と、おんつぁんは考えている。

 

「Lehmansのボードは手の届きやすい価格なので、カムバックしたい人にとってはぴったりのスノーボードだと思います。そういった人にどんどん発信していきたいですね。自分も一時期は引退していましたけど、戻ってみたら全然滑れたりするものなので。」

 

おんつぁんは、Lehmansの魅力をこう語る。

 

「大手メーカーはブランド力があったり、有名スノーボーダーをライダーに抱えてたりしていますが、Lehmansはサラリーマンがやっていて、滑りも決してプロ級なわけではありません。

でも、そんな奴らがスノーボードを本気で楽しんでいる姿を発信しているのは、今までにないコンセプトだし、そういった“等身大”のブランドは今の時代に間違いなくあっていると思うんですよね。

スノーボードにかかる費用を極力抑えて、みんなで楽しむ機会をいかに増やせるか、というところを突き詰めて考えてサービスを提供していきたいと思います。」

 

「もちろん、これからスノーボードを本格的に初めたいと思っている学生にもおすすめしたいです。何回もゲレンデに来てもらって、スノーボードの楽しさに気づいてくれると嬉しいですね。」

 

サラリーマンおんつぁんの仕事観の変遷

20代まで勤めていた工場の仕事は、変わり映えのないメンバーで同じ単純作業をこなすのみであった。しかし、おんつぁん自身、人と関わるのが好きな性格であったため、Burtonでの接客業は向いていると感じていた。

 

さらにBurtonでは、スノーボードの知識が十分でない後輩店員の育成を行い、店舗全体の売上に貢献していた。仲間を支えながらチームとして成果を出すことの楽しさを見出した。

 

「一緒に働くのは20代前半の若い子が多かったのですが、正直あまりスノーボードに詳しくなくて。自分に商品のことをよく聞きにくるんですよ。教育した新人店員が、お客さんにボードやウエアを無事買ってもらえたところを見ると嬉しかったですね。」

 

この経験から、「工場勤務をしていたときにチームで目標生産数を達成していく仕事も、実は自分に向いていたのではないか」と考え直すきっかけになり、製造業への転職を決意した。現在では、大手化学メーカーの工場全体の現場管理を行っている。

 

「結局工場系の仕事に戻りましたが、Burtonでの経験は今でも活かせています。工場の現場では少し頭のカタい人間が多い中で、『お前は少し違うな』と先輩から言われることがあります。」

 

Burton時代にさらに磨きをかけたコミュニケーション能力で、20代の若年層と50代以上の管理職世代のコミュニケーションの橋渡しをする“潤滑油”のような役割を担っている。

 

悩める中年スノーボーダーたちへ

おんつぁんは、普段から体力維持を目的にジム通いでオフトレに励んでいる。ジム通いを続けていたら、体の変化を感じてどんどん楽しくなってきたという。

 

「他のLehmansメンバーは20代後半で、自分は40代。昔は、圧倒的に自分の方がよく滑れたのですが、今ではみんな成長して自分より少し上のレベルになっています。

でも、まだ何年かはみんなと一緒に滑りたいと思っているので、怪我しないような体作りを頑張りたいと思っています。」

 

そんなおんつぁんと同じ中年世代のスノーボーダーたちに対して、伝えたいメッセージがあるという。

 

「一度スノーボードを引退した世代は、家庭や仕事など色々な事情を抱えていると思います。でも自分の時間をつくって、ぜひ一歩を踏み出して欲しいと思います。

ゲレンデに行くと、自分のような中年世代のスノーボーダーもちらほら見かけることができて、さらにやる気が出ます。自分もブランクがあった経験があるので、カムバックしたい人の後押しをしていきたいですね。」

 

おんつぁんはさらに、こう付け加える。

 

「あとは、子どもたち世代もどんどんスノーボードに連れてきてあげてほしいと思います。

自分がスノーボードを始めたきっかけになった高校の同級生には子どもがいて、その子たちと一緒に滑ることもあるのですが、本当にいいスノーボード人生だなと思います。いろんな世代とスノーボードを楽しめたらいいなと思いますね。」

 

幅広い世代がスノーボードを楽しめる世界を実現するため、おんつぁんはLehmansでの活動を続けていく。

 

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一問一答プロフィール

メインスタンス:+18°/-9°(パウダーは0°〜+6°)

スタンス幅:53cmくらい

使用バインディング:Burton Genesis

使用ブーツ:Burton Ion

ホームゲレンデ:面白山高原

好きなロケーション:晴れのパウダー

幸せな瞬間:パウダーのロングターン

必殺技:特にないけど、トライポッドかな〜

尊敬するスノーボーダー:布施忠

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[インタビュー・執筆:安井一輝]

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